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国境のない核汚染 『ヒバクシャ』(鎌仲ひとみ)から

 鎌仲ひとみ監督の映画『ヒバクシャ 世界の終わりに』(2003年)をDVDで観ました。この映画の完全シナリオが収録されている書籍『ヒバクシャ ドキュメンタリー映画の現場から』鎌仲ひとみ著(2006年、影書房)も読みました。
 イラクでは、1991年の湾岸戦争で米軍に大量の劣化ウラン弾を投下された後に、白血病を患ったり障害を持って生まれてくる子どもたちが年々増え続けました。鎌仲さんは、1998年の最初の取材では、イラクの子どもたちを殺しているのは医療を危機的な状態に陥らせている経済制裁にあると感じました。そして制作したドキュメンタリー『戦禍にみまわれた子供たち ― 湾岸戦争8年後のイラク』が1999年2月NHKの衛生番組で放送されました。
 その後、鎌仲さんは、写真家の森住卓さんの紹介で肥田舜太郎医師に会い、イラクの子どもたちに起きていることは被曝だということを知り衝撃を受けます。肥田さんは、自身も被爆者であり、戦後一貫して被爆者医療を続けてきた専門家です。2001年の夏、原爆記念日に肥田さんと一緒に広島を訪れ、そこで「アメリカのヒバクシャ」というトム・ベイリーさんと出会いました。ハンフォード核施設が、故意に放射性物質を風下にばらまいて住民をモルモットにしたと彼は言います。
 こうして、イラクの劣化ウラン弾の被害者、アメリカの核施設による放射能汚染による被害者、日本の広島・長崎の被爆者は、それぞれ同じ苦しみを抱え、根源には核兵器や原発の核燃料製造に伴う放射性物質の大量蓄積があったことにたどり着きます。こうして映画『ヒバクシャ』が作られ、2003年に上映されましたが、私はこの映画を観ていませんでした。劣化ウラン弾がもたらす被爆の問題や、広島・長崎の被爆者認定の壁に「低線量被曝」の問題があることを知っていましたが、アメリカのハンフォード核施設で、原爆に使用された濃縮ウラン・プルトニウムや原発の核燃料が作られ、副産物として劣化ウランが大量に生成されていたことをこの映画・書籍で初めて知りました。DSC01299.JPG
 東日本大震災による福島第一原発の重大事故によって住民が被曝の危険にさらされています。多くの人々が鎌仲さんの『ヒバクシャ』を注意深く観て、現在進行している被曝問題の本質に気づき、それを止めることができていたら、こんなことにはならなかったのではないかという後悔の念が生まれました。でも、たたかいはこれからです。政府は原発を引き続き稼働させようとしていますし、核兵器も世界にたくさん存在します。濃縮ウランの製造と使用済み燃料の再処理をやめさせることが、その根元を断ち切るために必要です。
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