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社会権規約及び拷問等禁止条約に関する審査と日本の人権問題(1)

 月刊誌『前衛』10月号に掲載された「世界の逆を向く『人権後進国日本』-社会権規約・拷問等禁止条約審査を傍聴して」(吉田好一・著)を読んで、日本政府による人権問題への取り組みの遅れと不誠実な対応が、世界からみてひどいものであることを痛感しました。その内容を抜粋・要約して紹介します。
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[国連人権規約・条約は人権の国際基準]
 4月30日に社会権規約日本政府報告審査(第3回)、5月21日・22日に拷問等禁止条約(拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約)第2回審査が行われました。また、来年7月には自由権規約第6回日本政府報告(政府報告は昨年4月に提出)審査が予定されており、今年10月に行われる委員会で日本政府に出される質問事項(リスト・オブ・イシュー)に向けて、NGOとしての対応も準備中です。このように今年は多くの問題をもつ日本の人権状況を前進させるための重要な年です。ほとんどのメディアがまともに取り上げていないだけに、多くの人たちに関心をもってもらうためには人権NGOの努力が重要です。

 社会権規約第3回日本政府報告審査

[審査前に行われた2回のNGOミーティング]
 4月29日(審査前日)、パレ・ウィルソン(国連人権高等弁務官事務所)の審査会場と同じ部屋で、NGO主催の「ランチタイム・ブリーフィング」と社会権規約委員会主催のNGOミーティングの両方が行われました。どちらも委員とNGOが参加し、日本の人権状況をNGOが発言し、委員からの質問や意見が出され、それにまた答えるなどのやり取りも行われます。
 発言は、日弁連、ワーキング・ウィメンズ・ネットワーク、在日朝鮮人人権協会、ヒューマンライツナウ、社会権規約NGOネットワーク、社会権規約NGOレポート連絡会議などが発言しました。国際人権活動日本委員会からは、年金者組合、過労死家族の会、JAL不当解雇裁判原告の3人が発言し、委員からの質問にも答えました。

[日本政府報告書審査を傍聴]
 社会権規約委員は、ロシア、エジプト、カメルーン、ポルトガル、インド、アルジェリア、ポーランド、スペイン、エクアドル、ベラルーシ、モーリシャス、ブラジル、スリナム、オランダ、韓国、コロンビア出身の17人です。審査には日本政府代表団として、外務省、男女共同参画室、内閣府、法務省、厚生労働省、文科省、環境省などから16人、ほかに関連する国連機関やマスコミ関係者なども出席しているので、会場は常時満員状態でした。
 まず日本政府代表が「2009年12月に提出した第3回政府報告書から3年目になる」と切れ出し、リスト・オブ・イシューへの回答内容を含めて、男女平等、人身取引、障害者、雇用問題、社会保障、大震災など全般的な問題に関して発言しました。それを受けて社会権規約委員から日本政府に対し、質問し、答えを求め、あるいは委員の見解を述べるという形式で行われました。東日本大震災、福島第一原子力発電所事故と放射能汚染、労働者の権利(長時間労働、非正規雇用、解雇、差別、過労死など)、女性差別、社会保障、貧困、自殺問題、「慰安婦」問題など多岐にわたって委員から質問と意見が出されました。
 それらの意見は「日本委員会」を含めて、NGOが提出した大量のレポート(机の前に並べられている)を読んだ上で、さらに委員の意見を主張するものです。同時適訳で聞きながら心打たれました。
 日本政府代表団の回答は、用意したペーパーを読み上げるだけの通り一遍な回答で、委員の質問へのまともな回答になっていない場合が多く、建設的対話にもなりません。今回の審査では、日本政府が長い間批准を留保していた社会権規約13条2項の留保が撤回されたので、そのことも議論されました。
 ワリード・サディ特別報告者(ヨルダン)が、「積極的側面として評価される社会権規約第13条2(b)(c)(中等教育及び高等教育における無償教育の漸進的な導入)の留保撤回について問題を残している」として、「高等学校の無償化から朝鮮学校が排除されているのは平等の権利に反する。北朝鮮の拉致問題と日本にある朝鮮学校に通っている子どもは何の関係もない。日本で生まれ、日本で育ってきた子どもを排除する理由にはならない」と発言しました。また日本軍「慰安婦」問題についても、「日本政府の対応はドイツと違う。ドイツがヨーロッパで受け入れられたのは、ナチスが犯した犯罪へのドイツの反省・謝罪をしているからだ。次の世代が同じことを操り返さないためにも日本もドイツと同じように対応してもらいたい」と発言しました。
 後日、拷問等禁止条約の審査の折に、お会いした社会権規約委員のシン・へイシュウさん(韓国)は、「日本は過去に向き合ってこそ未来がある」と言いましたが、日本政府代表の発言は、過去を振り返らず、反省もせず、現在の「北朝鮮」を持ち出すなどまったく恥ずかしくなる回答でした。

(次回に続く)
タグ:人権 NGO
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