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社会権規約及び拷問等禁止条約に関する審査と日本の人権問題(2)

 前回に続き、月刊誌『前衛』10月号に掲載された「世界の逆を向く『人権後進国日本』-社会権規約・拷問等禁止条約審査を傍聴して」(吉田好一・著)の内容を抜粋・要約して紹介します。
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 日本政府への「総括所見」(「懸念と勧告」を含む)発表

 社会権規約第3回日本政府報告審査の「総括所見」(「懸念と勧告」)は、5月17日に出されました。問題は日本政府が、国連人権機関からだされた「勧告」をほとんど履行しないことです。今回の社会権の「勧告」だけでも37項目ありますが、自由権規約・社会権規約を批准してから30年、この間女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約などの審査で出された勧告、人権理事会による普遍的定期的審査で出された勧告はそれぞれ数十項目もあり、同趣旨のものがあることを考慮しても合計すると膨大な数になります。そのほとんどと言ってもいいくらい日本政府は実行していません。そればかりか出された「懸念と勧告」を、関係省庁や担当部署に知らせることもほとんどしていません。「回覧している」という報告を受けたことはありますが、履行する姿勢からはほど遠いものです。

[「勧告」をほとんど実行しない日本政府]
 世界で140カ国が廃止または停止している死刑制度、119カ国が批准している自由権規約の個人通報制度、男女平等度が98位から101位に落ちた女性差別などなど、真剣に取り組んでいないばかりか検討すらしていない項目があります。
 経済大国である日本政府の「人権後進国」ぶりには、国際的に強い批判があります。社会権規約審査でも何度も討論され、いつも「勧告」に入っている「慰安婦」問題もそうです。この問題で今回の審査でも熱心に日本政府を追及していたのは、シン・へイシユウ委員でした。彼女は1990年代には韓国のNGO(韓国挺身隊問題対策協議会)の代表として、国連で発言していました。2011年に社会権規約委員になったとのことです。拷問等禁止条約の審査でジュネーブに行ったときにお会いし、「ぜひお話を」とお願いしたところ、社会権規約審査の「総括所見」が出された5月17日に実現しました。
 シン・へイシユウさんの話……日本政府が条約機関の出す勧告をどう履行するか注目しているが、日本は後ろ向き。逆方向に歩んでいる。最近、橋下大阪市長が「慰安婦は必要だった」などと言っているが、戦争責任を認めないということか。日本は過去と向きあってこそ未来がある。社会権規約の勧告を国内法化し、国内で適用すべきだが、それをしていない。日本の市民・NGOはカウンターレポートを提出し、国連でロビー活動をするなど、政府の行動をモニタリングしてほしい。

 拷問等禁止条約第2回日本政府報告審査を傍聴

 報告審査前の5月17日に拷問禁止委員会とNGOとの公式ミーティングが行われ、日本委員会からは3人が英語で発言しました。
 4人の委員から、「慰安婦」問題や精神病患者の隔離などの問題、死刑制度、「ダイヨウカンゴク・システム(代用監獄)」について「弁護士が立ち会えない取り調べに司法審査はないのか?」などの質問が出されました。

 [審査第1日は政府報告の説明と委員の質問]
 5月21日拷問等禁止条約第2回日本審査が開始され、日本政府からは外務省、法務省、警察庁などから16人が参加しました。
 日本政府の代表が、政府報告書の趣旨を発言。取り調べについては、検察・警察それぞれで指針を作成し不服申し立ての制度などをつくったこと、捜査機能と留置機能の分離を徹底していること、取り調べ可視化については一定の要件のもとで段階的に進めており、現在、法制審議会で審議を行っているなどを説明しました。
 出席した8人の委員から「代用監獄」での長時間・長期間の取り調べの問題、被拘禁者の処遇や過剰収容の問題、死刑制度、入管問題や精神医療など多岐にわたる質問が出されましたが、とくに刑事手続きや司法のあり方について、具体的で詳細な質問が出されていました。
 「弁護士の立ち会い抜きの取り調べが23日間も続けば虚偽の自白を生む。布川、足利といったケースでは再審が行われているのではないか」「検察官は時に歪曲した、偏った証拠を提出しているのではないか。一触の事件で重要な証拠を提出しないということがあるのではないか」「可視化についても録音録画をしたりしなかったりで、一貫性がない」(メネンデス委員)。「裁判官は拷問を認定するスキルを持っているのか。多くの有罪認定が拷問で得られた証拠に依存しているように思われる」(ドマ委員)。「弁護人の取り調べへの立ち会いが認められないのはなぜか。捜査の秘密を守るためというが、弁護士は司法の一部なのだから説得力がない」(ベルミー委員)。「長期の独居拘禁、15日以上の拘禁は精神に影響が出て、ひいては永久に残るとの研究があることを承知しているか」(ブルーニー委員)。
 最後に議長役のガエル委員(アメリカ)が、橋下大阪市長・日本維新の会共同代表の、「従軍『慰安婦』は必要だった」発言に触れ、「率直に言って橋下市長の発言は受け入れられない。軍の支配下の施設から女性は移動の自由はなかったのだから強制は明らか」だと厳しく指摘し、「第二次世界大戦での性的奴隷については前回も勧告しているが、中学、高校の教科書にも掲載が少なくなっているのはなぜか」と政府の姿勢をただしました。この「慰安婦」問題については、8人の委員のうち6人が質問し「勧告」も出されました。

[日本審査担当委員からの総括質問]
 第1日の審査の最後、日本審査担当のマリーニョ・メネンデス委員とツグシ委員が、2日目の審査に向けて日本政府に総括的な質問を行いました。
 逮捕された収容者の取り調べについて、23日間も代用監獄におかれ、弁護士の立ち会いもなく取り調べが続く。被疑者は人道的扱いがされているか。布川、足利事件のように強要される状況で得た自白で、死刑の判決が出るケースもある。弁護士の立ち会いはどうか。死刑制度についての委員会の立場は明確で「廃止」であるが、日本は死刑を支持する人が多いと開く。独居房の検討、恩赦の適用、精神障害を持った人の問題、死刑執行の本人と家族への連絡など、より人道的にする必要がある、などです。

 「シャラップ!」 - 上田大使

 2日目の5月22日、前日に各拷問禁止委員から出された質問に対して日本政府代表団が回答。いつものことながら用意した文章を読み上げるだけで、質問粟まともに答えません。23日間も代用監獄に勾留し、弁護士も立ち合わせず取り調べをして自白を迫り、その自白を唯一の証拠に(都合の悪い証拠は隠して出さない)犯人にしたてあげる取り調べに対し、ドマ委員(モーリシャス)が「まるで中世のようだ」と発言しました。
 審査の最後に上田国連人権人道大使は、「日本は中世の国ではない。人権の分野では世界で最もすすんだ先進国だ」という意味のことを声を大にして言いました。会場全体から笑いが出たとたん、上田大使が声をあらげ、「笑うな!」「シャチップ(黙れ)!」「シャラップ!」と繰り返しました。このことは日本のマスコミでも報道されていますが、国連の人権の会議で「黙れ」とは決して許される発言ではありません。

 「文化の違い」を実感 - フランス総同盟との話し合い

 社会権のツアーでは、ジュネーブへ行く前に、4月26日パリを訪問し、フランス総同盟(CGT)本部を訪問し、会談と交流透しました。参加者の中の全日本年金者組合は、フランス年金者組合(UCR)と話し合い、その後高齢者施設を訪問しました。フランス年金者組合は「ヨーロッパ各国に社会保障政策があるが、すべての高齢者が豊かに暮らせるヨーロッパ統一の権利章典をつくろうとしている」とのことでした。
 過労死家族の会と、日本航空不当解雇撤回裁判原告はCGT運輸労組、CGT本部書記局の政策担当部門と会い、懇談しました。「フランスでも労働組合活動に対する弾圧が強くなっている。しかし、安易な解雇を禁じる法律がある」、「日本における『カローシ』と同じものはない。長時間労働に対する規制があり、労働者の健康管理は雇用者の義務である。1936年に決められた年間30日の有給休暇は、バカンスなどで100%近く消化されている」、「日本との違いは文化の違いである」と言われました。

 国連と敵対する日本政府

 「社会権」「拷問」の勧告をみても両委員会とも日本のNGOの声を取り上げています。国連人権機関と日本の民衆の声は完全といっていいほど一致しています。しかし、自ら立候補し人権理事国になっている日本政府は、ほかの規約・条約委員会からの勧告を含めてほとんど無視し、履行していません。その結果、例えば日本の人口の半分以上を占める女性の人権をみると、ジェンダー・ギャップ指数は2012年(前年)の98位から101位に後退しています(135か国中)。そのうえ、「シャラップ!(黙れ)」発言があり、拷問禁止委員会が「慰安婦」問題で出した勧告に対して「勧告に従う法律的義務はない」と閣議決定した、といいます。日本国憲法98条2項では「日本国が締結した条約及び確立された国際法規はこれを誠実に遵守することを必要とする」と書かれているにもかかわらずです。「自民党改憲草案」では「基本的人権」を明記した憲法「第97条」を全文削除しており、「第36条 拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」という条文から「絶対に」を削除しています。これでは「拷問」容認といわれても仕方がありません。現在の自民党安倍政権は国際人権規約・条約に反し、国連人権機関と敵対してけるといわざるを得ません。
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 以上が、吉田好一さんの報告の概要ですが、文末に資料として「社会権規約委員会・日本に対する第3回総括所見(2013年5月17日)翻訳:社会権規約NGOレポート連絡会議」と「拷問禁止委員会で採択された第2回日本政府報告審査に関する総括所見(2013年5月31日)翻訳:国際人権活動日本委員会」が掲載されていますので、ぜひ『前衛』10月号をご購読下さい。
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